転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


165 秘密でもなんでもなかった内臓のお肉



「さて、それではとりあえず近々にルディーン君に振り込まれるお金に関しての話は終わりました。と言う訳で、ここからはこれからの話に移りたいと思います」

 正直まだあるのかと言いたい。だが、ここまででの話はギルドマスター一人が説明を続けていた。

 なら、この席にロルフと言う爺さんが参加している意味が無いんだよなぁ。

 と言う事は、これからの話にこの爺さんがかかわって来ると言う事なんだろう。

 そしてルディーンからも、このロルフと言う爺さんにはお世話になっているとの事だから、親である俺は面倒でもこれからの話に付き合わなければいけないってことなんだ。

「最初にどうしてもお聞きしなければならないことなのですが、もしかするとこれからお話する事はグランリルの村の秘密に関わることかもしれません。もしそうでしたら、それを洩らしたルディーン君を叱らないでやって欲しいのです」

 家の村の秘密? えっと、そんなのあったっけか?

 いやいや、目の前のギルドマスターがこんなに真剣な顔をして話していることなんだから、もしかしたらあるんかも知れない。

 そう思った俺は、居住まいを正して彼女の次の言葉を待った。

「まずお聞きしたいのは、魔物の内臓の肉についてです」

「内臓の肉? ああ、そう言えばルディーンがお土産にって持っていったっけな。それがどうかしたんですか?」

 俺たちもルディーンが食べられるって言わなければずっと捨ててた部位だからなぁ。

 イーノックカウの露天でも見た事が無いし、この街でも普通は捨てている場所なんだろうけど、それをお土産に持ってくるなんてどういう事だって文句でも言いたいのだろうか?

 俺はこれから何を言われるのかと一瞬身構えただけに、ギルドマスターの次の言葉には心底驚かされたんだ。

「我々もまさか魔物の内臓の肉にあれほどの魔力が含まれているとは思いませんでした。ですから、もしやグランリルの村の方々があれほどの強さを誇るのは、あの内臓の肉を常に食しているからなのではと考えたのです」

 はい? 一体何を言ってるんだ、この人は。

 内臓の肉が俺たちの村の強さの秘密だって? つい最近まで誰も食べた事がなかったんだから、そんな訳が無いだろう。

「わしらも魔物の肉に含まれる魔力が体を丈夫にし、病気などの時は口にする事で抵抗力が上がって早く治る事を知っておる。じゃが、まさか内臓には普通の肉以上の魔力が含まれており、少量でもより多くの魔力を体に取り込めると言う事は誰も知らなんだのじゃよ」

 そして爺さんから続けてこの話を聞かされた俺は、更に驚かされたんだ。

 俺でも魔物の肉を食べれば体が丈夫になる事は知っていたけど、まさか内蔵の肉にそんな効果があるなんて想像もしていなかったからな。

「待ってください。じゃあ内蔵の肉を食べれば、もっと体が丈夫になると言うんですか?」

「うむ。それは食べ物を解析する錬金術師が調べたのじゃから間違いは無い。じゃが、その様子からするとグランリルの者たちは知らずに口にしておったようじゃのう」

 俺の話を聞いてそう言いながら白い髭をなでる爺さん。

 その表情からすると、内蔵の肉にそんな効果があることを俺が知らなかったことに驚いているようだ。

 だけどそんなのは当たり前だろう。そもそも内蔵の肉を初めて食べたのは、つい最近の事なんだから。

「じゃが知らずとも、口にしておればその効果は確実に現れる。と言う事はやはりグランリルの村のものがあれほどの強さを誇るのは内臓を食べ続けてきたからと言う事かのぉ」

「待ってください。俺たちは内臓の肉なんて食べてきてませんよ」

 ところがこの爺さんは俺たちの村ではずっと内臓の肉を食べていたかのように話し始めたんだ。

 だから俺は慌ててそれを否定する。

「俺も内臓の肉を食べたのはつい最近が初めてです。正直、ルディーンから美味しいから捨てちゃダメだって言われなければ、今も捨ててたと思いますよ」

「なんと! では、内蔵の肉を食べようといいだしたのはルディーン君じゃと申すのか?」

 俺が魔物の内臓を食べ始めた経緯を話すと、爺さんは目を見開いて驚きの表情になっった。

 まぁ解らんでも無いがな。あんな小さな子が、内蔵の肉を食べようなんて言い出すとは誰も思わないだろうから。

「ええ。確か鑑定解析とか言うやつですか? それを取れた魔物の内臓に使って、ここは食べられるとか、ここが美味しいとか言ってましたよ」

「なるほど。鑑定解析か!」

 爺さんが言うには、普通の解析では毒があるかどうかやどんな成分が入っているかは解るけど、うまいかどうかは解らないらしい。

 それに対してルディーンが使う鑑定会席ってのは詳しい情報が解るから、どこが食べられるとか、どこが美味しいとかまで解るらしいんだ。

「それは流石に私たちも気が付きませんでした。しかし、ルディーン君が鑑定解析をして内臓の肉が美味しいと気が付いたと言うのならうなずけます」

「確かにのぉ。じゃが、と言う事はグランリルでは内蔵の肉をあまり口にしないと申すのじゃな?」

「はい。うちでは最近良く食べますが、村の人たちは先日うちで開いた焼肉パーティーでくらいしか、食べたこと無いと思いますよ」

 あの焼肉でうまさが伝わったから、これからは村でも内臓を捨てずに食べられるようになるだろうけど、今のところは誰も食べていないはずだ。

「では、内臓の肉はグランリルの村の秘密では無いのですね?」

「はい。何せ今までは捨ててましたからね。でもいまぁ、多少下ごしらえは大変ですが、これからはみんな捨てずに食べると思いますよ。かなり美味しいですからね、あれ」

 俺がそう言うと、爺さんはうんうんと嬉しそうに頷いていた。

 彼が言うには、魔力を多く含んでる物は美味しく感じるそうなんだ。

 だからこそ、多くの街では強い魔物ほどその肉が高い値段で取引されているらしい。

「そう言えばグランリルではウサギ以外の内臓は食べないのですか?」

「どうなんでしょう? ルディーンからは一角ウサギとジャイアントラビットの内臓しか下処理の仕方を教えて貰って無いですが、もしかしたら他にも食べられる魔物もいるかもしれませんね」

 俺がこう話すと、ギルドマスターと爺さんはその下処理と言う事場に食いついてきた。

 と言うのも、ルディーンはもしかしたら草食の魔物しか内蔵が食べられないかもって言っていたらしくて、その為に森の奥深くから鹿の魔物を狩ってきてもらったそうなんだ。

 だけど街まで運ぶ過程で内臓が悪くなってしまったそうで、これではイーノックカウ周辺では魔物の内臓を手に入れる事ができないと思っていたらしい。

「その下処理って言うのを教えては貰えませんか? それが解れば、依頼した冒険者が森の奥でその処理をしてから持ち帰ることが出来るようになるかもしれませんから」

「ああ、いいですよ。俺でもできるくらい簡単ですから、ちょっと教えれば誰でもできるでしょうからね」

 俺はルディーンから教えてもらった、塩で内臓を洗う方法を二人に教えた。

 その時には当然、俺やディック達が失敗した、象徴や大腸の脂を間違ってもそぎ落としてはいけないと言う事も一緒にな。

「なるほど。ならば塩と水さえあればいいのですね?」

「ああ。水は川辺で解体すれば幾らでも手に入るから、持っていくのは塩だけでいいでしょう。それにルディーンが言うには内蔵の肉は魔力が多く含まれているから、処理さえしてしまえば普通の肉より長持ちするそうですよ。ただ下処理を早くやらないと、臭くて食べられなくなるらしいですが」

 それを聞いて深く頷く爺さん。どうやら先ほど話していた冒険者が持ち帰った鹿の魔物は、臭くて食べられなかったらしいんだ。

 だけどその場で下処理を終えれば、きちんと持ち帰ることができると聞いて喜んでいるようだ。

「ありがとう。これでこの街でも内臓を口にする事ができるようになるじゃろう。いや、もしかするとこの帝国中で魔物の無い臓の肉を口にするようになるやもしれんな」

「ハハハッ、そんな大げさな」

 爺さんの話を聞いて俺はつい笑ってしまったけど、どうやらこの話は冗談ではなかったらしい。

「いやいや。先ほども申したであろう? 魔物の内臓の肉は多量に魔力を含んでおると。そのうえ普通の肉よりも日持ちがするとなればその価値は計り知れん。当然、その情報もな」

「そうですわね。この情報を齎したルディーン君には、何かしらのお礼をしなければいけませんね」

「うむ。場合によっては帝国府より褒賞金が出るやもしれんな」

 なんだかまた大事になってるような気がするんだが。

 俺、帰るまでに、胃に穴が開くんじゃないか?




 予想外に話が長引いて、まだ大人たちの話し合いが終わらない。

 と言う訳で大人たちの話し合いは一時中断して、次回はハンスがイーノックカウに来ている間のルディーン君のお話です。


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